神戸地方裁判所尼崎支部 昭和43年(ワ)631号 判決 1974年1月25日
原告
新美嘉彦
被告
三原誠一
ほか二名
主文
一 被告らは、原告に対し各自金八、九二八、八六六円ならびに内金七、九四九、八六四円に対する昭和四一年一二月一八日より、および内金一七九、〇〇二円に対する昭和四五年七月一日よりそれぞれ完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告らの各負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
五 但し、被告らにおいて原告に対し金八、九〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは右仮執行を免れることができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
(一) 被告らは各自原告に対し金二三、七九八、一五四円ならびに内金二一、七二六、八六五円に対する昭和四一年一二月一八日以降、内金五七一、二八九円に対する昭和四五年七月一日以降それぞれ完済まで各年五分の割合による金員を支払え。
(二) 訴訟費用は被告らの負担とする。
(三) 仮執行宣言。
二 被告ら
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
(三) 仮執行の免脱宣言。
第二当事者の主張
(請求原因)
一 被告三原誠一は、昭和四一年一二月一八日午後四時二五分頃、普通乗用自動車(以下加害車という)を運転して、時速約三〇キロメートルで西から東へ進行中、西宮市今津野田町二〇番地先の交差点に差しかかつたが、折から、南北道路を南から北へ進行中の原告運転の自動二輪車を自車前部に衝突させ、原告をはね飛ばした。
二 右事故により原告は、頭蓋骨骨折、左鎖骨骨折、骨盤骨折、外傷性左股関節脱臼、左下腿骨骨折等の傷害を蒙つた。
現在頭部外傷性後遺症、左股関節疼痛、左膝運動障害、左下股短縮、左下股知覚異常の後遺症があり、下肢の短縮左四・五センチメートル、運動制限、坐ることが不可能、松葉杖を使用しての歩行五〇〇メートルが限度という状況である。
三 本件事故現場は、南北の道路の幅員一〇・七メートル、東西の道路は、十字路西方直前に幅員六・〇五メートルの橋があり、明らかに南北道路が幅員が広いので、優先道路である。被告誠一は、狭い道路(橋上)から出て広い道路を横断しようとする際に、広路の安全を確認して進行する義務があるのに徐行を怠り、しかも南北道路は北(左)から南(右)への一方通行であると誤信し、前方右(南)を全く見ずに進行した過失により、本件事故を発生させた。
被告三原新次郎、同三原京子は、両名の共同事業である装身具販売店「みはら」のため加害車を共同して保有していたものである。
かりにそうでないとしても、本件事故は、右両名が雇用していた被告誠一が装身具の商品を顧客に配達する途中であり、被告新次郎、同京子が同誠一のため新居を求めていたときに発生したものである。
したがつて被告誠一は不法行為者として民法七〇九条により、被告新次郎、同京子は、加害車の共同運行供用者もしくは、被告誠一の共同使用者として自賠法三条、もしくは民法七一五条により、原告の蒙つた後記損害を共同して支払う責任がある。
四 原告は本件事故により次の損害を蒙つた。
(一) 医療費、医療器機代金等
1 医療費、医療器機代金四七六、四〇二円
2 入院中諸雑費 七九、八八七円
3 交通費 一五、〇〇〇円
(二) 逸失利益金一八、七二六、八六五円
原告の本件事故当時の月収は五五、〇〇〇円であつたが、これは父の営業する鉄工所の事業を援助する意味もあり、最低の生活費として支給を受けていたに過ぎない。したがつてこれを原告の逸失利益の基礎とすることは適当でない。原告が以前技術者として外務省から外地に派遣され一カ月手取り金七万円の収入を得ていたことを考慮すると、昭和四四年度労働省労働統計調査部編昭和四四年賃金センサス第一巻第一表による昭和四四年四月当時の全産業男子労働者の平均月額賃金給与額および平均年間賞与その他特別給与額を基礎として別紙(一)のとおり算出した金額一八、七二六、八六五円が、すなわち原告の収入を控え目にみて算出した逸失利益となる。
(三) 慰藉料 三〇〇万円
原告は本件事故により、永久に不具となりその程度もひどく、頭部外傷による後遺症については治癒の見込がない。そのため将来仕事につくことは至難のことと思われる。この筆舌に尽し難い程の深い精神的苦痛を慰藉するには、少なくとも三〇〇万円が必要である。
(四) 弁護士費用 一五〇万円
五 よつて原告は被告らに対し、各自損害賠償金二三、七九八、一五四円ならびに右のうち、弁護士費用、治療費等を控除した二一、七二六、八六五円に対しては事故発生日たる昭和四一年一二月一八日より、治療費等五七一、二八九円については支払を終つた翌日である昭和四五年七月一日より、それぞれ支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(請求原因に対する認否)
一 請求原因第一項の事実中、被告誠一が時速約三〇キロメートルで進行し加害車の前部を原告の自動二輪車に衝突させたことは否認し、その余は認める。
二 同第二項の事実中、原告がその主張のような傷害を蒙つたことは認めるが、その余は不知。
三 同第三項の事実中、被告誠一が前方を確認しないで進行したとの点は否認する。
本件事故現場の東西に通ずる道路は、交差点西側直前の橋上の部分のみは幅員六・〇五メートルであるがこの橋の西側以西は幅員一四・六メートルの、また交差点の東側以東は幅員九・〇五メートルの道路が貫通して本件南北道路と交差している。したがつて、東西の道路と南北の道路と何れが優先道路であるかは疑問である。
被告京子が装身具販売店の共同経営者であること、被告誠一を雇用していたこと、被告新次郎、同京子が被告誠一のため居宅を求めていた際本件事故が発生したことは否認する。
四 同第四項の損害の額は争う。
(抗弁)
一 免責の主張
(一) 本件事故現場は、交通量も少なく直線道路であるから、原告が少し注意をすれば、加害車の横断するのを当然認めうる状態であつたにもかかわらず、原告は衝突直前まで制限速度を超えたまま直進を続けそのまま加害車の右前部に激突したものである。原告が、今少し速度を落し前方および側方を注意して進行してきておれば、前方交差点を横断しようとしている加害車を相当の距離から容易に発見し得たはずであり、そしてハンドルを多少でも右に切つておれば、本件事故の発生を避け得られたはずである。原告がこのような処置に出なかつたことは、原告に本件事故発生について重大な過失があつたものといわねばならない。
(二) 他方運転者である被告誠一には責められるべき過失はない。
被告新次郎は従来から被告誠一に対して、運転の都度安全運転をして事故を起さぬよう厳重に注意を与えており、時おりは、自ら助手席に同乗して過失を犯さぬよう助言をしており、本件事故当日も後部座席に同乗して事故現場に至るまで運転上の注意をしていたものである。
(三) また加害車は、事故発生日より一〇日前に点検整備を受けて検査に合格したばかりであるから、車の構造上の欠陥および機能の障害は絶無であつた。
二 過失相殺
被告誠一は、本件事故現場に差しかかるに当つて時速一〇ないし二〇キロメートル位で進行したのに対し、原告は事故の瞬間まで、制限時速五〇キロメートルを超過する時速約七〇キロメートルで突進してきた。本件事故現場は、見とおしがよいので、原告は交差点の遙か手前から加害車が左方(西方)から右方(東方)に前示速度で横断しつつあることを認め得た筈である。両車がそのままの速度で進行して交差点に入つた場合は同時進入となり衝突するおそれがあるにもかかわらず、原告は、自車の方が先に交差点を通過し得るものと速断したか、それとも加害車が西から東に横断しようとしていることを全く見のがして、本件交差点に進入したその過失により、加害車の右側前部に接触し、本件事故を発生させたものである。
本件交差点は、東西の道路と南北の道路と何れが広路かの判別は明らかでないから、両道路は、優劣なき同幅員の道路と認めるべきである。そうだとすると、加害車は左方車、原告車は右方車であるから、左方優先の規定によつて原告車は交差点手前で減速して、左方車である加害車に譲るべきである。したがつて原告の本件事故についての過失は相当大きい。
かりに南北の道路が東西の道路より広路であつて優先権があるとしても、加害車は原告車よりも先に交差点に入つたものであるから、先入優先の規定の働く余地がある。
さらに一歩譲つて原告車と加害車とが同時に交差点に進入したものと仮定しても、原告には前述のとおりスピード違反や前方左方不注視等の過失がある。
これらは、本件事故による損害賠償額の算定に斟酌されるべきである。
三 一部弁済
被告らは、原告に対し本件事故に関して昭和四二年一月一四日より同年一〇月一日までの間に、次のとおりの金員を支払つた。
(一) 診療費 一、二五四、〇四六円
(二) 付添婦費用 一三八、六〇〇円(一九八日分)
(三) 生活費 三五五、五〇〇円(二三七日分)
(四) 原告車の修理費およびその他の雑費 四三、四五〇円
(抗弁に対する認否)
一 原告に過失があるとの点は否認する。被告らは、原告が高速度で走つて来た点に過失がある旨主張するが、偶々交差点で南北道路を横断するに当り、被告誠一は、南北道路を一方通行である旨誤信し、右方からの車両の通行を全く確認せず、また一時停止もしくは徐行をなさずして、同一速度で漫然と交差点に進入したのであるから、事故が発生するのは当然である。原告が高速度で走つたことは、本件事故発生と関係がない。しかも原告は、事故現場から一〇〇メートル北方に自宅があるため、右折すべく減速していた。
本件事故発生は被告誠一の一方的な過失によるものである。
二 被告らから昭和四二年八月まで、生活費の支払を受けたことは認める。
第三証拠関係〔略〕
理由
一 原告主張の日時場所において、主張の交通事故(以下本件事故)が発生したことは当事者間に争いがない。
二 傷害の部位・程度
本件事故により、原告が、頭蓋骨骨折、左鎖骨骨折、骨盤骨折、外傷性左股関節脱臼、左下腿骨骨折等の傷害を蒙つたことは当事者間に争いがない。そこで、同傷害の程度について検討する。
〔証拠略〕を綜合すれば、
(1) 原告は、右傷害によりその治療を受けるため、事故時より昭和四二年九月まで、また昭和四三年二月一日より同月一〇日まで、更に昭和四三年八月六日より翌四四年一二月一九日まで、関西労災病院などに入院し、なおまた昭和四五年二月まで、右入院期間を除き、通院していたこと。
(2) 現在後遺症として陳旧性左股関節脱臼、左鎖骨仮関節、左足関節拘縮の外科的障害ならびに左半身に触覚、痛覚、位置覚の知覚鈍麻、記銘力障碍、失見当識等軽度の痴呆傾向などが残存している。
そして、陳旧性左股関節脱臼のため、股関節痛があり、跛行が強く、杖を要し、したがつて長途歩行、速い歩行、長時間立位は困難である。
以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
三 被告らの帰責事由(過失相殺を含む)
(一) 被告誠一の過失および原告の過失
〔証拠略〕を綜合すれば、以下の事実が認められ、右認定に反する証人三原徹一の証言、被告誠一本人尋問の結果の各一部は、にわかに信用することができず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
(1) 本件事故現場は、南北の道路と東西の道路とが十字に交つている交差点である。南北の道路は幅員一〇・七メートルあり、この道路の西側に幅員四・一メートルの川をはさんで幅員六・四五メートルの道路が平行して走つている。東西の道路は、本件交差点西側直前の橋の部分は幅員六・〇五メートルであるが、幅員六・四五メートルの南北道路の交差点西側は幅員一四・六メートル(非舗装部分とも)、本件交差点東側は幅員九・〇五メートルとなつている。両道路は直線でアスフアルト舗装(但し幅員一四・六メートル道路のうち北側五・二五メートルは非舗装)されている。最高速度は毎時五〇キロメートルと定められていた。なお、各道路とも交通量はすくなく、見通しはすべて良好である。
(2) 被告誠一は、事故当日、その勤務する「みはら」装身具店の商品配達のため、同店の保有にかかる加害車を運転して、時速約三〇キロメートルで西から東へ進行中、午後四時二五分頃、事故現場の本件交差点に差しかかつた。このような場合、自動車運転者としては、南北の道路から交差点に進入してくる車両との出会頭の衝突を避けるため、前方、左右を充分注視して交通の安全を確認し、そのうえで進行すべき注意義務があるにも拘らず、被告誠一は、南北道路は北(左)から南(右)への一方通行であると誤信し、右(南)方に対する注視を全く怠つたまま進行した過失により、偶々右方より進行して来た原告運転の自動二輪車に気付かず、同二輪車に加害車前部を衝突させて、同人をはね飛ばし、前示の傷害を負わせた。
(3) ところで、前記のとおり、本件交差点は交通量も少く、かつ見とおしがよいので、南北道路上の通行車両としても、もし東西道路上に車両があれば、はるか手前からこれを発見できる状況にあつたものと推認できる。したがつて、南北道路を北進していた原告が、もし、前方、左右に対する注視を怠らなかつたものとすれば、加害車が、左(西)方から、速度を落すことなく自車の進路上に進入しようとしているのを容易に発見することができ、直ちに衝突回避の措置を講じ得た筈であると解される。ところが、現実には、本件事故の発生をみたのであるから、この事故発生については、原告が前方、左右に対する注視を怠り漫然と進行を続けたその過失もまた一因をなしていると推認するに充分である。
(二) 過失相殺
右認定事実によれば、本件事故発生は、被告誠一の過失および原告の過失の競合によるものであり、右認定の各過失の程度ならびに諸般の事情を考慮すれば、いわゆる物損および弁護士費用を除いた損害につき、原告の過失の割合を二〇パーセントとして損害賠償額を定めるのを相当と判定する。
(三) 被告新次郎、同京子の共同保有者責任
〔証拠略〕によれば「みはら」装身具店は、被告新次郎単独の名義で銀行取引がなされ、所得税の申告においても事業者は同人単独としていることが認められる。
しかしながら他方、〔証拠略〕によれば、被告新次郎は、いわゆる婿養子として被告京子と婚姻したものであつて、現在同人らが居住する住居、土地は、すべて被告京子所有であつて、被告新次郎名義の不動産は見当らないこと、「みはら」装身具店の運営においても、同人は昭和四〇年頃以来病弱のため、自ら店に出ることなく、被告京子がその責任において、店の中心業務である販売などを担当し、同店の中心となつていること、右のように同店の経営運営に重要な役割を果しているにもかかわらず、被告京子は、店より給与の支払を受けていないこと、などの事実が認められる。右認定事実と前記の事実を対比して考えると、「みはら」装身具店が被告新次郎の単独事業であるというのは、単に名目上のものに過ぎず、実質上は、同人と被告京子の共同経営にかかるものと認めるのが相当である。
そして、本件事故は被告誠一が「みはら」装身具店の保有にかかる加害車を運転し、同店の商品配達業務に従事中、発生したものであることは前判示のとおりであるから、同装身具店の共同経営者である被告新次郎、同京子はいずれも加害車の共同運行供用者であり、その責を免れないものといわなければならない。
(四) 帰責事由の結び
以上のとおりであるから、被告誠一は不法行為者として民法七〇九条により、被告新次郎、同京子は加害車の運行供用者として自賠法三条により、原告が蒙つた後記損害をそれぞれ賠償する責任がある。
四 損害(一部弁済を含む)
(一) 治療費等
(1) 〔証拠略〕によれば、原告は本件事故により治療費および医療器機代金として四七六、四〇二円の支出をなしたことが認められる。
(2) 〔証拠略〕によれは、原告は入院中の雑費として七九、八八七円を下らない金員を支出したことが認められる。
(3) 前記認定の原告の受傷の部位、程度ならびに通院の期間を考慮すれば、原告主張の交通費一五、〇〇〇円は正当である。
(4) 〔証拠略〕によれば、被告らは、右(1)(2)(3)以外のものとして、原告のために、診療費ならびに附添看護費用として合計一、三九二、六四六円の支払をなしたことが認められる。
(5) そうすると原告の本件事故による治療費等の損害は、双方の支出金を合せた一、九六三、九三五円となる。これについて、前記の割合に応じて過失相殺すると、被告らの賠償すべき金額は一、五七一、六四八円(円未満切り捨て。以下同じ)となる。
(二) 逸失利益
〔証拠略〕によれば、原告は本件事故当時の父の営む大正鉄工所に勤め、月収五五、〇〇〇円を得ていたことが認められる。したがつて右金額を基礎とし、将来の昇給を斟酌して原告の逸失利益を算出することが相当である。原告は昭和四四年度当時の全産業男子労働者の平均月額賃金給与額および平均年間賞与その他特別給与額を基礎として算出すべき旨主張するが、本件のように事故当時における収入が明らかな場合には、過去においてたまたまこれを上廻る収入をあげていた事実があつたにしても、原告主張の算出方法は適切ではない。ただし、年令帯による昇給は、原告主張にかかる別表(一)の平均月額賃金給与額に従い計算するのが相当である。
原告は、本件事故により、終生にわたつて就労が不可能である旨主張する。〔証拠略〕によれば原告は本件事故による傷害のため事故当日より現在まで就労していないことが認められる。そこで、将来における労働能力の喪失率について判断する。〔証拠略〕によれば、労働力障害の原因となつているのは主として陳旧性左股関節脱臼と左鎖骨仮関節であるが、前者に対しては関節固定術もしくは股関節全置換術が可能であり、後者に対しては、骨接合術兼骨移植が可能であること、そしてこれらを施術した場合には股関節痛はなくなり、杖も不要となり跛行も大いに軽減されるので労働力は軽度障害に改善される見込であること、ならびにこれに伴つて頭部外傷後遺症も現在以上に軽快好転する可能性があることが認められる。さらに、〔証拠略〕によれば、原告は、昭和四五年七月一日より名神あけぼの園に身体障害者機能回復訓練受講のため通園しており、昭和四八年当時においては社会復帰を目的とした身体障害者向けの硝子のハンダづけ作業の訓練を受けている事実が認められる。以上認定した事実ならびにすでに認定した受傷の部位、程度、回復状況、今後なすべき手術等に要する期間などを綜合すると、原告は、事故当日から三九才頃までの一〇年間はなお労働不可能な状態が継続するけれども、それ以降は就労可能であり四〇才ないし四五才頃までの五年間は、労働能力の喪失率五〇%、その後は喪失率零となり、労働能力全部の回復が可能であることが認定できる。
したがつて、将来における昇給を前示のとおり斟酌し、本件受傷により蒙つた原告の四五才頃までの逸失利益の現価(本件事故当時の現価)を、いわゆるホフマン方式により、中間利息(年五分、単利)を控除して算出すると、別紙(二)のとおり七、三八一、七〇六円となる。
原告主張の逸失利益のうち、右を超える部分は理由がない。
これについて過失相殺すると、被告らの賠償すべき金額は五、九〇五、三六四円となる。
(三) 慰藉料
前記認定のような本件事故の態様、原告の受けた傷害の部位、程度、治療経過および原告が今後も困難な手術を必要としているにも拘らずそれについての費用を請求していないこと、その他本件証拠上認められる諸般の事情を綜合すれば、原告が本件受傷により蒙つた精神的苦痛は甚大なものであることが認定できる。したがつて、これを金銭に評価して償う場合のいわゆる慰藉料は、原告主張どおり三〇〇万円をもつて相当と判定できる。
これについて過失相殺すると被告らの賠償すべき金額は、二四〇万円となる。
(四) 弁済
(1) 前記認定のとおり、被告らは治療費等として合計一、三九二、六四六円の弁済をなした。
(2) 被告らが原告に対し生活費として三五五、五〇〇円を支払つたことは当事者間に争いがない。これを前記の逸失利益に充当する。
(3) 被告らの抗弁する二輪車の修理費等の支払は、原告主張の債権に対する弁済には該らないし、また、この程度の物損について、過失相殺をなすことも相当ではない。
(4) 右により弁済した金額を控除して、原告が被告らに請求し得る残債権を算出すると次のとおりである。
1 治療費等 一七九、〇〇二円
2 逸失利益五、五四九、八六四円
3 慰藉料 二四〇万円
合計 八、一二八、八六六円
(五) 弁護士費用
本件訴訟の訴額、難易の程度、認容額その他本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は八〇万円が相当であると認める。
五 よつて、原告の被告ら各自に対する本訴請求のうち前示四の(四)の(4)の残債権と四の(五)の弁護士費用を合せた八、九二八、八六六円ならびに右より弁護士費用、治療費等を控除した七、九四九、八六四円に対する昭和四一年一二月一八日より、また治療費等部分一七九、〇〇二円に対する昭和四五年七月一日より、それぞれ支払済まで年五分の割合により遅延損害金の支払を求める部分を正当として認容し、その余の請求部分を失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法九二条、九三条、仮執行および同免脱の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 山田義康 上野昌子 前川豪志)
別紙(一)
<省略>
各年間の収入及びホフマン係数によると左表の通り
<省略>
別紙(二)
<省略>
右各年令帯の収入に基づきホフマン式計算方法により逸失利益の現価を計算すると次のとおり。
<省略>